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「海は自分が万物のうちのひとつだという感覚を与えてくれる」

INTERVIEW WITH YUTA SEZUTSU
瀬筒雄太 / プロロングボーダー

photo:Rai Shizuno text: Takuro Watanabe

サーフィン、そして海から得られることの大きさは計り知れない。千葉県いすみ市の太東海岸を拠点に活動するプロロングボーダーの瀬筒雄太さんとの話からは海と関わることの豊かさを感じることができた。

WAVEMENT:今日はプロロングボーダーとしての顔はもちろんですが、暮らしも仕事も海にあり、海と共に生きている雄太さんの海との関わり方やライフスタイルから、海や自然の楽しみ方のヒントを感じられたらいいなと思っているんです。雄太さんの最近の活動はどんな感じですか?

瀬筒雄太(以下:雄太): サーフショップの運営と、サーフィンを教える仕事をしていて、それ以外の空いた時間には波乗り。ベースはそんな感じのシンプルな暮らしですね。

WAVEMENT:もうずっと太東海岸で暮らしているんですか?

雄太:この土地に来たのは15歳の時で、それまでは福岡にいました。中学3年生の14歳でプロになって、中学を卒業した後のタイミングで千葉に移り住んだんです。だからもう19年になりますね。同じくプロサーファーの奥さんと一緒になって、彼女のお父さんがつくった店を引き継ぐ形で僕らのショップとして運営するようになったのが2015年のことでした。

WAVEMENT:人にサーフィンを教える時はどんなことを大切にしているんですか?

雄太:僕の場合はなるべく干渉しないようにしています。これが楽しいよとか、こうした方がいいよとは言わないですね。自分で海と触れながら感じて、学んで、気づいてもらうことがすごく大事だと思うんです。僕自身も日々海に触れられていること、そして海に触れたいと思う人に対してサーフィンを通して海の時間を共有できることに感謝の気持ちを持つようにしています。そういう気持ちって表に現れてくると思うんです。僕と一緒に過ごしてもらった時に、海に触れて海と共に暮らしていることで人はこういう表情になるんだ、素敵だなと感じてもらえるといいなと思ってます。

WAVEMENT:伝えたいのはサーフィンだけじゃないんですね。

雄太:温度とか、砂の感触とか、たくさんありますよね。だから、サーフィンばかりを教えないようにしています。サーフィンだけじゃないなと、そんな考えになったのは、割と最近のことなんです。コロナの時の影響が自分の中では大きくて、あの時、サーフィンできないような環境にもなってしまった中で、自分は本当はどんなサーフィンがしたいんだろうと考えて、自分なりにたくさんサーフィンをしたんです。いろんな土地に旅に出たりした時に、景色の美しさ、そして割れる波の美しさにあらためて気づかされたんです。いい波を求めて旅をしたことで、いろんなものがすごくシンプルになっていきました。

海や波、自然とかいろんなものと一体化できたんです。それは一生追い求められるものだなって思ったというか。

WAVEMENT:コロナ禍のあの時間が雄太さんを変えた日々だったんですね。

雄太:僕にとってはすごくインパクトのある体験でしたね。そういう感覚を追い求めている人は一般のサーファーにもいたりもしますし、もっと言えば、サーファーじゃなくて海水浴客の人たちもそうだと思うんですけど、夏の間に、キラキラした海にワーッてジャンプして飛び込むっていう感覚にすごく似ていると思うんです。サーファーが純粋に波を求めることと、海を知らない人が夏だ、暑い! って海に行くような感覚は、すごく似てるなあと思うんです。

WAVEMENT:人としての本能や直感的に海に触れることで得られる喜びですね。雄太さんのようにシンプルに波を求め、海に触れていることで、心が満たされていると思うんですけど、自分の中にどんなことが残っているんでしょうね。

雄太:いい波を求めるっていうことよりも、美しい景色に出会いたいっていう思いが強くあります。人のいない海でラインナップに出た時に、波を待ちながら海を見た時に、海と自分だけしか存在していないという瞬間なんて最高ですね。そういう環境はこの辺だとなかなかないのですが、旅に出て、自分の求めている環境に出会えると、本当にその瞬間、時間が止まるというか、海と一体化するというか、万物のうちのひとつになれる感覚が僕はすごく好きなんです。

WAVEMENT:「万物のうちのひとつ」とてもいい言葉ですね!

雄太:“一体化している”っていう感覚が好きなんです。純粋にその感覚を得やすいのはボディサーフィンなんでしょうね。そして、究極を言ってしまうと全裸で海に触れるっていうのが最高なんだと思います(笑)。だから、お客さんにも何か機会があったら裸でボディーサーフィンしてみてくださいねって言うんですよ。それが究極のサーフィンだと思うんです。僕もオーストラリアでやったことがあるんですけど、めちゃくちゃ気持ちよすぎて衝撃的な体験でしたね。陸上の重たいことから解放されるんです。生身の体で海に浮く感覚って、多くの人は最初うまくできないんですよね。どこかが沈んじゃう。でも、慣れてくれば体のバランスを感じることで上手に浮くことができるようになってくるんです。この感覚ってものすごく大切な気がしますね。

WAVEMENT:海の中で力を抜いて一体感を得る能力は、おそらく本来は全ての人間が持っていたものなんでしょうね。

 

雄太:そうなんです。みんなが本来持っていたはずの感覚をどこかに置いてきていると思うんですよね。生まれた土地によって海の環境がない人たちもいるから難しいことではあるんですけど、本来人間に備わっている能力なんでしょうね。もうそれを忘れちゃって2代目、3代目の人もたくさんいるという状況なんだと思います。

WAVEMENT:海からはどんなことを得られると思いますか?

雄太:う〜ん、そうですね……、僕の場合は多すぎるんですよね。なんていうか、何かを得ているっていう感覚ではなくて、海に聞きに行っていると言う感じですかね。チェックしに行くというか……。

WAVEMENT:聞きに行くっていうのは、どういう感覚なんですか。

雄太:自分の生き方とか、自分のあり方に正解はないと思うんですけど、自分がどうあればいいかと悩んだ時に海に行くとすごい落ち着くんで、色々気持ちを整理して帰ってくる感じですかね。でも、海から得ていると言ってしまうことで限定的なものにしてしまう感覚がありますね。海に触れないと気づきが得られない、学びは海からしか得られないとなるのは違うかなと思っています。海が全てとしてしまうと、海を知らない人にとって海がすごく遠い存在になるような気がしています。自分は海にそのそばに住んでいるだけで、海から色々なことは学ぶけれども、海ってそんなに難しいものでもなんでもなくて、もっと身近なものだし、気軽に触れてもらいたいですね。

WAVEMENT:そこには壁もないし、海との触れ合い方は自由ですよね。

雄太:そうなんですよ。海には誰でも簡単にエントリーできるんです。自分のマインドがオープンになっていれば簡単に触れられるものだと思います。

WAVEMANT:雄太さんのニュートラルであることを大切にしているその感覚こそが、海から得たものじゃないかなとも感じられますね。

雄太:そうですね。言われてみるとそうなのかもしれませんね。そうじゃないと海と一緒にいられないと思っています。自分の中にエゴがあったりすると、上手く海と馴染めなくなっちゃいますしね。今は多くの人に海に触れてもらいたいっていう思いが、前よりものすごく強くなっています。

WAVEMENT:
そう思うようになったきっかけがあるんですか?

雄太:やっぱり子供の存在が大きいですね。2人の子供を育てる上でどういう環境を与えてあげたいとかを考えた時にたどり着いた答えがシンプルに海だったんです。海に触れていられるのはすごく重要なことだとあらためて思いました。長年海と関わっていて、みんながメールチェックするように潮をやうねりをチェックして、生活のスケジュールを組むんですけど、海のリズムで生活を整えるっていうのはすごく心地がいいんです。

WAVEMENT:その感覚を子供たちや海に触れたいと思う人にシェアしているんですね。

雄太:サーフィンを始めて、ずっとプロサーファーとしての自分はこうありたいとかいう考えばかりだったんですけど、あのコロナ禍での旅で得た経験で、そういうのがボーンってほとんど消えちゃったので、今は誰かに海を触れさせてあげることができる、仲介役になりたいと思えるようになったんです。僕たちのお店も、もっと海の家みたいにしたいんですよね。

WAVEMENT:人がもっと自由に行き来できる場ですね。

雄太:日本の海から海の家がなくなりつつありますしね。海の家みたいな存在って大切だと思うんですよ。ここに来ればとりあえず海に触れることができる、サーフィンができる、という感じのスポットになれたらいいですね。海っていう枠がもっともっと広がっていろんな繋がりが生まれて、サーフィンに特化しすぎないで、海に触れることが多くの人の日常の一部になっていけるとすごくいいのかなって思います。

瀬筒雄太(せづつ・ゆうた)
プロロングボーダー。14歳でプロロングボーダーの資格を取得後、国内外のツアーを転戦した後、20歳でコンテストの一線を退き、自身のサーフィンを追求する活動にシフト。Duct Tape Invitational(世界各国から16人のみ招待される世界最高峰のロングボードイベント)にも唯一日本人として招待されるなど、海外からも注目されている。現在はプロロングボーダーの良子さんと共に夫妻でサーフショップ『YR』を営む。
www.hello-yr.com

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