ハワイ すべての始まりはカヌーから
カヌーは海を繋ぎ、文化を繋ぎ、スピリットとコミュニティを繋いできた。
ハワイアンにとってのカヌーの存在とは?
photo: Rai Shizuno / text: Takuro Watanabe
カヌー。人が乗り、操舵して水上を移動するもっともプリミティブな乗り物。
6000年ほど前には古代シュメール人がカヌーに乗って移動をしていたそうだ。
カヌーを使った人類史上最大の冒険の一つといえば古代ポリネシア人の大航海。およそ1500年前のこと、マルケサス諸島のポリネシア人が星の明かりだけを頼りにして、当時無人島だったハワイまで3,200キロ以上の航海をしたのだ。
カヌーは土地や文化、さまざまなものを繋いできた。大きな海の中ではものすごく小さな存在だと思うかもしれないけれど、一艇のカヌーには長い歴史と限りない智慧があふれているのだ!
「カヌーがなければポリネシアの人々がハワイに辿り着いていないので、ハワイアンと呼ばれる人たちは存在しないし、皆がハワイと思う文化もハワイ語も生まれていないのです。ハワイアンにとって、すべてのはじまりにカヌーがあります」
ハワイ島ヒロに暮らすカヌー職人のアリカ·ブマタイさんがこう教えてくれた。アリカさんに会ったのは、神奈川県藤沢市の山で切らなくてはならなくなった樹齢100年以上のクスノキの御神木を用いてカヌーを製作する、日本ハワイアンカヌー協会のカヌープロジェクトの製作現場だった。削られたクスノキの香りがものすごく心地いい。
アリカさんはカヌー職人の家系に生まれ、祖父や父親の影響もあってカヌー職人になったのだそう。
「カヌー作りはすごくスピリチュアルなもので、自分自身がカヌーの作り手としての十分に成熟をしていないと、カヌーからお呼びがかからないんです。そして、カヌーを作るタイミングは自分で決めることじゃなくて、森やカヌーが教えてくれることなのです」
モータリゼーションが発達する以前のハワイでは、現代の暮らしに一家に一台車が必要なように、カヌーが一家に一艇必要だったそうで、集落ごとにカヌー職人がいて、伝統的なハワイアンカヌーを製作、修繕していたのだという。その頃のハワイの姿は美しかったんだろうな。
それだけコミュニティにとってカヌーが重要だったということはよくわかるのだけど、ハワイアンにとってカヌーはどのような意味を持つんだろう。
「カヌーを作る人たちの家庭やコミュニティーで何かぶつかり合いや不調和なことが起きていると、作っているカヌーがまっすぐにならなかったり、作業中に誰かが怪我をしてしまったりということが起こります。カヌーにはエネルギーレベルで嘘をつくことができないのです。ポジティブな気持ちであることや、常に人に優しく接したりすることが大切。カヌーとはそういう乗り物なのです」
そんなアリカさんや仲間たちはカヌーの修繕費や製作費を請求しないそうだ(!)。
それはあくまでもカヌーのためにやっているからなのだという。そうすることで、さらに他のカヌーに呼ばれるのだとアリカさんは言う。
「すべてのカヌーは森の木から生まれます。目に見えている木のカヌーは物質的な側面だけの話なんです。カヌー職人は木を大切に扱って、木に新しい命を授け、木のスピリットを繋いでいるのです」
人とコミュニティと文化を繋ぎ、土地を繋ぎ、過去と未来を繋ぐ存在であるカヌー。海に浮かぶ一艇のカヌーに秘められた叡智は計り知れないのだ。
日本ハワイアンカヌー協会
@jhcamanolovers